web連載『育児びより』|姉弟のケンカから見えた“生まれてきた意味”

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ある日のこと。8歳の姉と5歳の弟が激しく言い合いになりました。姉の口から出た言葉は「あんた(弟)なんて、生まれてこなければよかった!」――ケンカの勢いで飛び出したとはいえ、母の胸はぎゅっとなります。ところが、弟の返しは予想外でした。

姉弟がケンカしているイラスト1
(イラスト①:ケンカの場面)

5歳の弟の「哲学的すぎる」返し

弟は一瞬黙ったあと、しっかりとした声でこう言いました。

「ぼくだって、生まれたくなかったんだ。でも、ぼくは役に立つんだ!」

その瞬間、母は胸に不思議なものを感じました。まだ5歳が「役に立つ」という価値を自分なりに認識して表現する――この言葉には自己認識と自己肯定感、そして家族に対する帰属意識が混ざっていました。

弟が堂々と宣言するイラスト
(イラスト②:弟の名言シーン)

育児視点で読み解く:この一言が示すもの

  • 自己効力感(self-efficacy):弟の「役に立つ」発言は「自分が何かできる」という感覚の表れです。バンデューラらが示す自己効力感は、子どもの行動や学習意欲に直結します。
  • 帰属意識と家族ルールの理解:家の中での役割(例:犬のうんちを片付けるなど)を自分の役目と捉え、そこで評価される経験が言葉として表れた可能性があります。
  • 感情の自己表現と発達段階:5歳児は感情と言語の結びつきが急速に発達する時期です。否定的な発言(生まれてこなければ…)に対して防御的ではなく、能動的に「自分ができること」を示せるところが印象的です。

実際、この弟はその後もこう続けました。

「ぼくは、ママのために犬のうんちだって片付けられるんだよ!お姉ちゃんはできないでしょ。ぼくはママとパパとアナキン(犬)の役に立つんだ!」

思わず笑ってしまう可愛らしさと、その自信の源にある日常体験――親としては胸が熱くなる瞬間です。

弟が家族のために役立つと主張するイラスト
(イラスト③:弟のつづく主張【哲学】)

なぜ「役に立つ」という感情が育つのか?(実践的な視点)

子どもが「役に立つ」を感じるためには、いくつかの要素が必要です。以下は家庭で取り入れやすいポイントです。

  1. 小さな役割を与える:年齢に合った家事(片付け・植物に水をやる等)を任せることで成功体験を積めます。
  2. 達成を具体的に褒める:「すごいね!」ではなく「犬のうんちを拾ってくれて助かったよ、ありがとう」と具体的に伝えると効果的です。
  3. 失敗しても肯定する:うまくできなくても挑戦を評価し、次につながる言葉が自己効力感を育てます。

学術的にみると…(短い解説)

発達心理学では、幼児期の経験が自己概念(self-concept)や社会的役割感を育てるとされています。特に「評価される経験」は、将来の自己肯定感や社会性に影響します。姉弟ケンカはネガティブな出来事に見える一方で、弟のように自分の立ち位置を言語化できる機会にもなり得ます。

親が取れる具体的な対応例(ケンカの瞬間)

  • 感情の受容:まずは「そんなこと言われたら悲しいよね」と双方の気持ちを受け止める。
  • 事実の確認:何がきっかけかを冷静に聞き、誤解や行動の背景を探る。
  • 解決の提案:「じゃあ今日からこれを一緒にやろうか?」と協力タスクを与えると和解がスムーズです。

まとめ:怒りや傷つきは成長の材料になる

ケンカでつらい言葉が飛び交っても、そのあとに「自分の価値」を見つける子どももいます。親はその瞬間を見逃さず、肯定的な経験に変えるチャンスを作ることが大切です。今回の弟の一言は、単なる反撃ではなく「自分でできること」を理解し、家族に貢献したいという純粋な思いの表れでした。こうした小さな出来事が積み重なって、子どもの自己肯定感と社会性は育っていきます。

今回のエピソードは仲直りで終わりました。姉も弟も、ぶつかり合いながらも家族の一員として学び合っているのだと感じます。読んでくださったみなさんの家庭にも、今日ちょっとした“いい瞬間”が訪れますように。

— cocoa(cocoa design)

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